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お題【意味あるの?】
アヤがシャワーを手短に浴びて出てくると、決まってまだびしょびしょだ。からだにも玉のような雫がここかしこについているし、後からドライヤーで乾かすにしたって、髪からもぽたぽたと水滴が落ちている。もう少し洗面所でタオルドライしてから部屋に戻ってくるべきだろう。
それを見たリョウはやれやれと呆れながら、でもどこか嬉しそうに、アヤの元へ歩み寄る。そして肩にぶら下がったタオルを手にし、アヤの髪を拭いてやるのがもはや習慣なのだ。しゃあないなあ、なんてこぼしながらも、リョウの眼差しはあたたかく、子を見つめる聖母、とまでは言い過ぎかもしれないが、何せ慈愛に満ちている。
アヤもアヤで、目を閉じてされるがまま。まるで飼い主から撫でられて気持ちよく喉を鳴らす猫のように。
「はい、終わり」
という言葉と共に、リョウがアヤのおでこに自身の額を軽く合わせた。毎回必ず行われるこの儀式を、アヤは不思議に思っていた。
「何なの、それ」
「それって?」
「最後の」
「え、このデコのこうやるやつ?」
「うん。それ、意味あるの」
言われてリョウはへにゃりと笑いながら額を離した。
「意味あるかって改めてきかれたらなんか恥ずかしいけどな……せやなあ、俺がアヤのことめーっちゃ好きやで、っていうのがちょっとでも伝わったらな、って……」
言い終わらないうちに、アヤがリョウを抱きしめた。まだ濡れている髪が、リョウの頬や耳にひやりと触れる。
「どっ、どしたん」
「やっぱり、意味無い」
「え、今言うたやん」
「そんなの、もう充分伝わってるだろ」
「アヤ……」
「それとも、充分伝わってるってこと、伝わってない?」
「ううん、めっちゃ伝わってる!」
リョウも負けじと力較べをするようにアヤを抱き返し、弾けるような笑顔を見せれば、アヤも僅かに目を細め、口もとを綻ばせた。
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