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第6話
始業時間に余裕で出社した幸太郎は、スケジュール帳を見て青ざめた。
「今日だったのかよ……合コン……」
すっかり記憶領域から抜け落ちていたのだが、今日は社内の女子達との合コンだと釘を刺されていたのだと思い出す。
「おはよ、坂上。いよいよ今日だな?」
同僚で隣の席の田中が、満面の笑みで挨拶をし、鞄を机に置いて椅子に座る。
田中はこの合コンの主催者で、男性社員の頭数が足りないということで、幸太郎に白羽の矢を立ててきた張本人だ。
「嬉しそうで何よりだな?」
「まあ、狙ってる子がメンバーに入ってるからな。あ、坂上、俺が狙ってる子に愛想振りまくんじゃねーぞ?」
「元々愛想なんてねーよ。なあ、その合コン、絶対行かなきゃだめなのか?」
そんな時間があるのなら、ナオとの時間を大切にしたい。
ただでさえ幸太郎が少し気を抜いただけで、すれ違いまくりの日々を送っているのだから、仕事の後のイベントなど行きたいヤツが行けばいいと思う。
「一次会だけでいいから、出てくんねー?」
「それ、どんくらい時間かかんだ?」
「とりあえず、2時間。そっから先はカップルになりたいヤツらが2次会とかに散って行くからさ」
「ちなみに、何時から?」
田中が言うには、とりあえず夜7時からレストランを押さえてあるということだった。
ということは、9時まで一次会に付き合って、帰ることになる。
帰宅するのは夜10時を超えてしまいそうだ。
幸太郎はナオにLINEメッセージを送っておくことにした。
夕食を2人分用意されてしまったら、無駄になってしまうのだから、知らせおく方が断然いい。
『今日の夜、飲み会が入った。夕食いらないから』
するとすぐに既読マークがついて、『俺も今夜会社の飲み会だって知らせるの忘れてたから、気にしないで』というメッセージが返されてきた。
「なんだ、アイツも遅くなんのか……」
それなら合コンへ行っても別にいいかと思う。
見合いのような真似をするのは性に合わないが、夕食くらいは食べられるだろう。
「何だよ、どーした、坂上?」
「いや、何でもねーよ。合コンの件、了解した」
「お前、隅っこでメシ食ってていいからな」
「言われるまでもねーよ、そうするに決まってんだろ」
ナオは幸太郎からのメッセージを、ぼんやり見つめていた。
幸太郎は営業職で、いつ接待が入るか分からないという職種だと知っている。
ちゃんとそのことを理解できていても、夜遅くにならないと会えないのかと思ってしまうナオは、狭量なのだろうか。
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