合コンの場所は、意外なことに洒落たレストランという風ではなく、店内が薄暗いビアホールだった。 少しうるさいくらいにBGMがかかっていて、合コンの一次会より二次会に向いていそうな店だなというのが幸太郎の印象だ。 男性陣は田中と幸太郎、そしてもう一人、上野という総務マンだった。 女性陣は先に来ていて、田中は目当ての子の真ん前に陣取る。 幸太郎はいつでも出られるように、テーブルの一番下座に陣取り、上野もその隣に落ち着いた。 そんな中、幸太郎は田中が狙っている女子を、こっそりと見つめる。 なるほど、目が大きくて笑顔が似合う、いかにも田中が好きそうな女性だなと思った。 「あの……営業の坂上さんですよね？」 田中達に見入っていた幸太郎は、向かい側の女性に話しかけられ、ビクリと身体を揺らした。 こっちは彼女の名前すら知らないのに、どうして相手は知っているのだろう。 「有名人ですよ、うちの社内では」 「俺が……？」 「はい、ハーフみたいなイケメンがいるって。えっとハーフなんですか？」 「いや、日本人だけど」 そんな風に噂されているとは知らなかったとばかりに驚けば、その女子と上野までもがクスっと笑う。 「なんだよ、上野。お前も知ってたのか、そういう噂？」 確か上野は幸太郎の同期だ。 新入社員時代の研修で、何度か見たことがある。 「知ってたよ。ってか、知らないのは坂上だけじゃないのか？」 「ふふ、そうですよねぇ」 隅っこでメシを食らうつもりだった幸太郎だが、そのうち上野の向かいに座っていた女子まで話に入ってきて、それどころではなくなってしまう。 頼むから、俺に話しかけんな──、という幸太郎の心の声は、誰にも届いていないようだった。 ナオは同僚に連れられて、これまでに足を踏み入れたことのないビアホールという場所に入り込んだ。 店内の薄暗さに驚くが、何よりもBGMのうるささには閉口してしまう。 こんな賑やかな場所で、果たして人の声が聞き取れるものなのだろうか。 「久住、こういう場所は初めて？」 あちこちを見回していると、先輩社員の橋本が興味深そうにナオを見ていた。 「あ、はい……あんまり飲みとか行かないんで」 何と言ってもナオは下戸である。 昔少しだけ酒を飲んだことがあったが、グラス1杯空けないうちに酔いつぶれてしまい、幸太郎に背負ってもらって帰宅したことがあるほどだ。 「飲めなそうな顔してるもんね」 「へ……？」 橋本のどこかからかうような言葉に、ナオは思わず間抜けな反応を晒してしまった。