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第9話
それから約2時間後──。
一次会を終えた合コンの場で、幸太郎はすっかりグロッキーになってしまった。
ナオと顔を合わせてからビールを一気飲みし、その後飲み放題メニューにあるカクテルやハイボールを片っ端から頼んで飲んでいたのだ。
当然あまり食べてはおらず、ひたすら「気持ち悪ぃ」と言って上野の肩を借りている状態だった。
「坂上、家どこ?送るから」
上野が親切心を見せてくれるが、幸太郎はこれ以上合コンメンバーと一緒にいたくない。
だから上野の肩から腕を外し、大きくよろけて雑居ビルの壁に背を預けると、「こっから1人で帰れっから……」と虚勢を張って見せた。
「けど……」
「なぁ、上野?」
「何だ?」
「今日、楽しかったか?」
「まあそこそこ」という上野の返答を聞くと、幸太郎はネクタイを緩めて口角を上げた。
「俺は全然楽しめてねーんだ……だからよ、もう1軒寄って、飲み直す」
「はあ!?そんなことしたら、明日出社できなくなるぞ!」
「会社にはちゃんと行くよ……心配いらねーから、行けって」
手で払うような仕草を見せれば、上野や幸太郎の向かいに座っていた女子社員も心配そうに振り返りながら去って行く。
そうだ、それでいい。
今の俺の心は冷え切ってんだ、お前ら相手に歓談できる心境じゃねーんだよ──。
幸太郎はそんなことを思いながら徐々に意識を手放し、その場に座り込んでしまった。
今度は行き交う人々が幸太郎を見ながら通り過ぎて行くが、誰にも手を差し伸べられないことが心地いい。
そんな荒んだ気分だった。
「久住、ずっとぼんやりしてたけど、楽しめた?」
「あ、はい。こういう場所に来ること自体初めてなので」
今日、ナオは職場の先輩である橋本に、「社会人になったからには、お酒も多少は飲めるようになろうよ」と言われ、出向いてきている。
もっとも、結局のところ1口も飲めず、終始ウーロン茶でしのいでいたのだが。
会計を済ませてさあ帰ろうというところで、橋本が「もう一軒付き合ってくんない?」
と言ってきた。
ナオは時計を見てもう9時を過ぎていることを確認すると、「明日に響くので今日はここで」
とやんわりと断る。
橋本も無理強いするつもりはなく、1人で飲むべく夜の街に消えて行った。
さて、気が重いけど帰らないと。
ナオはそう思って駅への道を歩き始めるが、その途中に大男が俯いて地面に座り込んでいる姿を発見した。
その大男の正体が幸太郎であることなど、言われずとも分かることだった。
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