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第10話

ナオは幸太郎の前にしゃがみ込むと、小さく肩を揺すってみた。 「幸太郎、起きてる?」 「ナオ……?」 「うん。タクシー捕まえて帰ろう?」 すると幸太郎の肩に置いたナオの手が幸太郎に払われた。 「『人違い』だったんだろ……?」 「それ以外に言いようがなかったんだから、しょうがないだろ」 そう、ナオは間違っていない。 ひねくれているのは幸太郎の方だった。 今まで誰と付き合ってきても、その関係を秘匿したことがないだけに、ナオとの関係を口にできないことがもどかしかった。 そして外にいる限り、どんなにナオが近くにいても、キスもハグもできないのだということに気付いた。 「なんでだよ……好きなのに……男と女なら平気でできることが、男同士だとできねーんだ……そんなの、おかしいだろ……」 ナオの胸がズキ──、と痛む。 こういう思いをさせると分かっているから、「好き」とも「愛してる」とも言いたくないのだ。 だからもし幸太郎が今日の合コンで誰かと付き合うことになっても、ナオは責めたりはしない。 「だって……俺はそもそも幸太郎の二番目でよかったんだから……」 一番目は、幸太郎のお嫁さんになる人。 その次でいいから、ナオのことを心に住まわせて欲しかった。 それなのに、幸太郎はナオを一番にしてしまい、そうしてしまったがゆえにジレンマに気付き、もどかしさと歯がゆさを抱えている。 「二番目とか……ふざけたこと言ってんじゃねーよ、ナオ」 「え……?」 「俺の一番はお前だ……ただ、俺がまだ慣れてねーだけだ……けどな、絶対慣れてみせる……」 「幸太郎……」 目頭が熱くなる。 こういう時の幸太郎は、ナオが思いもよらない言葉をくれる。 酔っていてもいなくても、剥き出しの本音をぶつけてくる。 「ほら、タクシー拾って帰ろうよ」 幸太郎はようやくナオの肩に腕を回し、雑居ビルの壁を上手く使ってナオに負担をかけないよう立ち上がった。 「ナオ」 「ん?」 「合コンしたけど……ただの数合わせだから……気にすんな」 「そっか……」 ナオは幸太郎に見えないように、こっそりと笑った。 どういう集まりだったのかが心に引っかかっていただけに、「ただの数合わせ」というフレーズが心地良く心に響く。 空車のタクシーが通り過ぎようとすると、ナオは手を上げてそれを止め、幸太郎を乗せて自分も車内に乗り込む。 外にいると、恋人らしいことなんてあまりできないけれど、帰る場所が同じだということだけで、安堵できるのだった。

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