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第11話
あの合コンから数日が経過したある日のこと。
幸太郎はあの日向かいに座っていた女子社員である戸倉夏美から、ランチのお誘いを受けた。
今日の幸太郎のスケジュールは、午前中にプレゼン用の書類を完成させ、社食でランチを摂ってから外出し、直帰するというものだ。
「え、だめ?どうして?」
営業部までランチに誘いに来た夏美は、幸太郎に拒まれたことにおどおどするあまり、ついつい声を大きくしてしまっている。
幸太郎はここでは話ができないなと判断すると、夏美を連れて廊下に出た。
「あの合コンな、俺は数合わせのために呼ばれただけなんだ」
決して自主的に参加したのではないと言えば、夏美はみるみるうちに瞳を潤ませた。
「じゃあ……彼女探しに来たワケじゃないんだ?」
「彼女、いるからな、俺」
「え……?」
ナオを女のように語るのは嫌だが、それしか言いようがない。
それにここで特定の相手などいないと語れば、それはそれで面倒なことになりそうだ。
だから幸太郎は夏美を牽制しようと、敢えてナオを「彼女」として語った。
「そ、そうなんだ……現実って残酷っていうか……」
「少なくとも、自分が思うような展開にはなりにくい。それが現実ってヤツだと思う」
幸太郎はあの日ナオと鉢合わせしてしまった時のことを思い出した。
「人違いです」と言われた時、心が折れるかと思った。
他の男の後をついていくナオを見て、連れ戻したい衝動に駆られた。
「うん、分かった。じゃあ……諦めるね」
「おう」
この日、幸太郎は客先から直帰した。
腕時計に目を落とせば、まだ5時前で、今日は夕食当番ができそうだ。
ここのところずっとナオに任せきりだったので、たまには自分が食事を作ってやろう。
幸太郎は家の最寄りのスーパーに入って行くと、野菜コーナーから見て回る。
献立はどうしようか。
そう言えば最近ナオは好物のハンバーグを食べていないような気がする。
じゃあハンバーグにしようと、玉ねぎをカゴの中に入れる。
後は合い挽き肉と付け合わせのニンジン、クレソンでもあればディナーらしくなるだろうか。
「ナオって好きなモン食ってる時、マジ幸せだって顔すんだよな……」
これから帰って食事を作る。
ナオが帰宅するのはいつも6時ちょっと過ぎだから、帰ってすぐに熱々のハンバーグを食べさせてやれるだろう。
幸太郎も、こんな風にナオに尽くしてやれる時間が、心から幸せだと思う。
願わくば「好き」とか「愛してる」という言葉が欲しいところだが。
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