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第12話
買い物を終えて帰宅すると、案の定ナオはまだ帰っていなかった。
幸太郎は一旦スーパーで買った物をダイニングテーブルの上に置くと、先日届いた小包を寝室から取ってきた。
小さな箱状の荷物を、ハサミを使って開けてみる。
「これが……媚薬ってやつか……」
ただの媚薬ではない。
これには「素直ではないお相手から正直な想いを引き出す」という効果があるという。
どんな薬なのかイマイチ信用できたものではないが、とりあえず少量だけ食事に混ぜてみてもいいだろうか。
当然ナオだけではなく、幸太郎の食事にも入れるつもりだ。
幸太郎は空き箱の類を潰してゴミ箱にねじ込むと、赤い小瓶に入った液体を目線まで持ち上げて揺らしてみる。
「ヤベー薬だったら、マジどうすっか……」
だがこれを購入する時、口コミを読んだ限りでは危ない薬だというレビューは全然見当たらなかった。
これを所持していることで、警察に目を付けられたということもなさそうだった。
幸太郎はとりあずスーツからスウェットに着替えると、夕食の準備をするためにキッチンに立った。
あれ──?
ナオが今まさに帰ろうとしていると、自分達の住まいに明かりが灯されていることに気付いた。
今日は幸太郎の方がナオよりも早く帰宅しているようだ。
「珍しいな……こういうの」
驚きながらも嬉しくなって、ついつい歩調が速くなる。
今日は自分からセックスに誘ってみようか、などと考えて赤面したりもする。
「そう言えば……俺から誘ったことって、ないかも……」
付き合ってからもうすぐ3年が経過する。
なのにナオは求められるばかりで求めたことがない。
「でも、シたいって言ったら、淫乱だって思われるかな……?」
今更淫乱も何もないだろうが、初めてお誘いする身としてはどうしても気にしてしまう。
「よし、俺から言ってみよう!」
気合いを新たに歩き始めれば、またもや歩調が速くなっている。
小走りになっていると言っても過言ではない。
でも、「好き」とか「愛してる」と言わないことを、いつまで我慢できるかについては自信がなくなってきている。
日を追うごとに幸太郎が好きになっていって、その感情がいつ爆発するのか分からないのだ。
ナオにしてみれば、心に時限爆弾を抱えているようなものだ。
でも、早く会いたい、触れたい、キスがしたい。
2人が外にいる時は色々我慢を強いられるが、家にいる時は何だってできる。
そのことが、ナオの心を浮き足立たせているのかもしれなかった。
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