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第18話
しばらくトイレに籠っていたナオは、顔面蒼白の状態で戻ってきた。
幸太郎は握った拳に更に力を込める。
「ナオ、どうした?」
「うーん……もの凄い吐き気がしててね……でも、吐けないんだよね」
まさに媚薬のマニュアルにあった症状だった。
素直になれない者は、媚薬の副作用として強烈な吐き気を覚えるのだ──、と。
とは言っても本当に吐く訳ではなく、吐き気だけが身体を支配するらしい。
「幸太郎、俺、朝ご飯いらないから……ちょっと今食べ物の匂い嗅ぎたくなくて」
どうしよう、黙っているべきか、打ち明けるべきか。
前者を選択すれば、ナオは病院へ行くと言い出すだろう。
後者を選択すれば、ナオは幸太郎への不信感と嫌悪を募らせるかもしれない。
だが、嫌われるとか、そんなことを考えている場合でもないだろう。
ここは真実を話して謝ってしまうに限る。
「ナオ、すまねー」
「なんで幸太郎が謝るの?」
顔色を悪くしたナオが、こちらを気遣うように小さく笑った。
「媚薬……昨夜のハンバーグの中に、微量ではあるが媚薬を入れた」
「へ……媚薬……?」
「ほら、いつだったか俺宛に小包が届いてただろ?あれの中身が媚薬だったんだ」
幸太郎は「本当にすまなかった」と前置きをして、媚薬のせいで昨夜の2人はあれほどに乱れたのだと話した。
「なんだ……俺が自分で解したから気持ちイイってワケじゃなかったんだ?」
「まあ、多分……」
「そんなこと、気にしてないから謝んないでよ」
「いや、その媚薬には副作用がある。今お前が吐き気を覚えてんのは、十中八九その副作用のせいだ」
素直な気持ちを口にできない者が、尚も頑なに心を閉ざしている状態の場合のみ、媚薬の副作用として猛烈な吐き気が起こる。
恐らく今ナオが苦しんでいるのは、幸太郎に対して意地を張っているからだろうと話した。
「意地……かぁ……」
「思い当たる節、あるんだろ?」
「ふふ、なくはないね」
でも──、とナオは続けた。
「今意地を張っているのに理由があるんだとしたら、それは仕方ないことじゃないかなぁ?そういう意味じゃ、その媚薬って自白剤みたいだね」
「悪ぃ……」
「そっか……そんな薬が世の中に出回ってるなんて、俺、知らなかったよ」
「悪ぃ……」
幸太郎としてはひたすら詫びるしかないのだが、ナオは気にしなくていいと笑う。
今は言えなくても、そのうち言えるようになるかもしれないから、それまで待っていてくれと、暗にもう媚薬は使わないでくれと苦笑していた。
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