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第19話
ナオの吐き気は結局昼頃まで続いた。
瞼を押し上げると、端整な幸太郎の寝顔が視界に入る。
「幸太郎のばーか」
そう言って彼の髪を撫でる。
媚薬を使ってまで「好き」とか「愛してる」とか言わせたところで、本当に嬉しいとは限らない。
むしろ薬の力を借りなければ告白の言葉を紡げないナオに、嫌気がさすかもしれない。
だからもうあんな薬は使って欲しくないし、ナオもなるべく努力しようと素直に思う。
「まだ二番目でいいとか思っちゃうんだよなぁ……」
大学時代、ナオは幸太郎の二番目になりたいと訴えた。
一番目は幸太郎の奥さんになる人だから、ナオは二番目がいいのだと。
その時ノーマルだった幸太郎は、ナオの存在ゆえにゲイの世界へ足を踏み入れてしまった。
だからナオは告白の言葉を紡げない。
まだ幸太郎に対して「申し訳ないことをした」と思う気持ちがあるからこそ、もう少し時間をかけて、その気持ちを咀嚼し、懐柔し、消化してしまいたい。
「ん……ナオ……」
ナオがハッとして手を避けるが、どうやら幸太郎は寝言を言ったらしい。
「ふふ、どんな夢、見てるのかなぁ?」
ああそうだ、とナオはもぞもぞとベッドの中から抜け出した。
幸太郎がスーツのポケットにしまっているという、媚薬を捨てなくてはならない。
さっき眠りに落ちる前に、「お前が捨ててくれてもいい」と言っていたから、問題ないだろう。
ナオはクローゼットを開け、幸太郎がよく着用する濃紺のスーツのポケットを漁ってみた。
あちこちのポケットに手を突っ込み、最後に胸ポケットを探ってみたところ、赤い小瓶が出てきた。
「うわぁ……すごく『媚薬』って感じする……」
いくら出して買ったのかは知らないし、どこのサイトでこんな物を見付けたのかにも興味はないが、今朝のような吐き気に襲われるのは二度とご免だ。
ナオは媚薬をトイレに流してしまうと、小瓶を燃えないゴミ入れに捨て、再びベッドの中へと戻った。
「幸太郎、ゴメン……俺が幸太郎をゲイの道に引きずり込んじゃったから……」
そう言って彼の前髪をスッと撫でる。
その手がすかさず掴まれて、ナオはハッとした。
「そんなこと気にしてんのか?」
「お、起きてたの!?」
「うとうとしてただけだからな……俺はゲイになったこと、別に後悔してねーぞ」
「──っ!?」
「今の俺はナオと同棲してる、それが答えだ。後悔なんてしてねーし、これからする予定もねーんだよ」
幸太郎はそう言ってナオの手にチュッとキスを落とした。
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