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第20話
週末を2人きりで満喫した幸太郎とナオは、月曜を迎えて少々ゲンナリしていた。
毎週月曜の朝に必ず考えてしまうのだが、日本人というのは働き過ぎではないだろうか。
週休2日を保証するのではなく、週休5日を保証してくれたら、出勤日の2日間は死に物狂いで仕事をするのに。
「まあ、この議論に結論ってないよねぇ」
ナオはマグカップのコーヒーを飲みながら、不機嫌さを隠そうともしない幸太郎を宥める。
もちろんナオも会社に行きたくないし、できることなら幸太郎と一緒に家でのんびりしていたいところだが、そんなことをすれば食べて行けなくなってしまう。
「国が制度を変えりゃいいんだよ。って、末端の庶民の声なんざ、お役所のお偉いさんには届かねーか」
幸太郎は朝食をすっかり食べ終えると、歯磨きのために洗面所へ移動する。
ナオはその間2人分の食器を洗い、自分も会社へ行くべく身支度を整えた。
「んじゃ、行ってくる。なるべく早く帰るから」
「うん、仕事、頑張って」
幸太郎はしばしナオの顔を見ていたが、やがて後頭部に手を回して顔をこちらに近付けさせ、唇を重ねた。
「い、行ってくる!」
照れたように駆け出して行く幸太郎に唖然とし、ナオは嵐が去ったようなマンション内でしゃがみ込む。
「何あれ……、何あれ……?幸太郎が行ってきますのチューするとか……嬉し過ぎる……」
それは小さなことなのかもしれない。
驚いたり、喜んだりするには、小さすぎる変化なのかもしれない。
それでも、幸太郎が新しいことをするにつけ、ナオは愛されているのだと実感できる。
そして、近いうちに「愛してる」と言えるような気がするのだった。
幸太郎が片道40分かけて出社すると、見知らぬ男性が営業部内に立っていた。
誰だ──?と思うが、気にすることなく席に着く。
「おい、藤堂、アイツが坂上だ」
ふと耳に入ってきたのは、幸太郎よりも大分年上の栗原という先輩営業マンの声だった。
「ああ、分かった。サンキュ」
「どういたしまして」
そんなやり取りの後、藤堂と呼ばれた男は幸太郎の方へと歩み寄ってきた。
どうしよう、挨拶をしようにも相手の素性が分からない。
「諸住副社長秘書の藤堂伊織だ。坂上幸太郎、副社長がお呼びだ。付いて来い」
「副社長が……?」
「そうだ。話があるとのことだ」
藤堂伊織はそれ以上説明するのは面倒だとばかりに幸太郎に背を向け、幸太郎は伊織の背を追って早足で営業部の部屋から出て行った。
一体副社長が何の用なんだろう──?
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