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第21話

藤堂伊織は背筋をスッと伸ばして、副社長室のある地上50階までのエレベーター内で無言を貫いていた。 幸太郎の方も、別に伊織と話すことなどありはしない。 強いて言えば、副社長の諸住翔が自分に一体何の用なのかが気になるが、きっと伊織に訊いても教えてもらえないだろう。 50階につくと、フロア自体が静かだった。 ここにあるのは社長室、副社長室、そして役員会がよく開かれるだだっ広い会議室があるだけだ。 伊織は副社長室の前に立つと、二度ほどノックをして「坂上幸太郎を連れてきた」と、執務デスクで書類を眺めていた諸住翔に言った。 幸太郎は伊織の翔に対する言葉遣いにびっくりするが、まあそのことはいいとしよう。 とにかく諸住翔の用件が聞きたい。 幸太郎は翔の前でくの字に身体を折り曲げ、「坂上幸太郎です」とだけ名乗った。 「君が坂上幸太郎か……」 さすがは副社長、発する言葉に重みがある。 「早速だが、君には見合いをしてもらいたい」 「は……?」 「庶務課の戸倉夏美という社員を知っているか?以前社内合コンで会っているという話だが」 ああ、合コンからしばらくして、ランチに誘いにきたあの女子社員か。 顔は覚えているが、名前の方はすっかり失念していた。 「厄介なことに、彼女は戸倉商事のご令嬢でね。君とのお見合い結婚をご所望だ」 「はぁ……でも、なんで副社長経由で自分に話が回ってきたんですか?」 すると、蚊帳の外にいるものとばかり思っていた伊織が、プッと吹き出す声が聞こえた。 「社内の見合い調整係兼仲人を社長から仰せつかっている」 「は?」 「これが見合い写真だ、持って行きなさい。見合いの予定は追ってメールで知らせる」 「はぁ……」 幸太郎は狐につままれた気分でもって見合い写真を受け取り、めくってみた。 なるほど、和装ではあるが、確かに社内合コンで一緒に飲んだ女子社員と同一人物だ。 「あの、これ、断る権利ってあるんでしょうか?」 「何?」 「俺には好きな人がいます。結婚はできませんが、真剣に好きなんです」 「結婚できない?相手は男なのか?」 図星だ。 どうして分かってしまったのだろう。 幸太郎が目を瞬かせていると、とうとう少し離れた場所で話を聞いていた伊織が笑いだした。 「翔、もう新人イジメはやめとけって。お前だって同じ穴のムジナだろ?」 「伊織、言葉を慎め」 「いいじゃん、もう社内でも知ってるヤツは知ってるんだしよ。なぁ、坂上?俺と翔もお前と同じ理由で結婚できねーんだよ」 「はああああ!?!?!?」

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