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第22話
「あ……す、すみません……つい大声を出してしまって……」
「いや、構わない。見合いをした後で断るのであれば、俺が話をつけてやれる。だが見合いもせずに断るのは難しい」
仰る通りだと幸太郎も思う。
断るにしても、会ってその人の人となりを見極めた上でなければ、断る方も断りにくいだろう。
それにしても、あの女子社員が戸倉商事のご令嬢とは。
なぜ自分の会社に就職しなかったのか、とても不思議である。
「彼女はいわゆる『腰掛社員』だ」
「え……?」
「仕事は適当にこなし、アフター5を謳歌するタイプ。別に悪いことではないが、仕事への熱意は他人の半分以下と考えてくれて構わない」
だから戸倉商事の戸倉社長に頼まれ、諸住物産で庶務課に配置されているのだと言う。
まあ確かに「熱血仕事人」という印象は持てなかったなと、幸太郎は思い出す。
「俺も正直突然舞い込んだ縁談に戸惑っている。それは君も同じだろうが、追って詳細を連絡するので、その写真は社名入りバッグに入れて持ち帰りなさい」
すると、伊織が諸住商事の社名が入ったバッグを用意してくれた。
幸太郎はストンと写真を入れると、そのバッグを手に副社長室を後にした。
その日、幸太郎は仕事どころではなかった。
勢いで写真を持ち出して営業に出てしまったが、今日は直帰する予定だ。
もしナオが先に帰っていたら、この紙バッグを見て何か言うだろうか。
追求されたら、上手く言い逃れできるだろうか。
「自信ねーよ、俺……そもそも媚薬の秘密だって隠し通せなかったじゃねーかよ」
幸太郎は決して口が軽いという訳ではなく、ただ真実を隠すことが苦手なだけだ。
だが諸住副社長がその秘書とデキているという話を誰かに吹聴するつもりはない。
「どうすんだ……マジでどうすんだ……いっそ会社に戻って写真だけ置いてくか」
そうは思うものの、下手に帰社して夏美に会ってしまったら、それはそれでかなり気まずい。
そこで「あれ?」と気が付いた。
幸太郎は夏美に「彼女がいる」と宣言しているはずで、彼女がそれを忘れているとも思えない。
なのに見合いを取り付けるとは、どういうことなのだろうか。
まったく、女のやることは何もかもが分かりにくくて困る。
幸太郎はとりあえず営業先を回って、時間が余ったら帰社して写真だけを置いて帰ろうと思うのだが、こういう時に限って帰社できない時間に仕事が終わるんだよなと、半ばヤケになって背を丸め、トボトボと歩くことしかできなかった。
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