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第24話
だが、ナオが幸太郎に写真のことを訊く前に、ナオの身体はこのストレスに耐えられなくなった。
写真を見てから吐き気が止まらず、何も作る気になれないのだ。
たかが見合い、されど見合い。
幸太郎はきっと断ってくれるだろうと思う反面で、断らないかもしれないとも思う。
普段から「好き」とか「愛してる」と言わないナオは、それだけで大きなストレスを抱えていた。
そこにあの見合い写真、おかしくならない方がおかしい。
「ただいまー」
幸太郎が帰宅するが、どうにも出迎えてやれそうにない。
ナオは幸太郎のクローゼット前に座ったまま、「おかえり」と小さく呟いた。
「ナオ?どうした?」
幸太郎が室内を覗くと、ハッとした。
ナオが手にしているのは、庶務課の女子社員の見合い写真だったからだ。
「幸太郎……このお見合い、するの?」
「──っ!?」
見合いの日時はもう決まった。
幸太郎の都合で平日の午後にしてもらっている。
もちろん、仕事の方は午後半休をとるつもりで調整中だ。
「するんだね」
「悪ぃ……もう、日程とか決まってて断れなくて……」
するとナオは写真を紙袋の中に戻して、幸太郎の方へ差し出してきた。
「少し時間をくれる?」
「時間?何の時間だ?」
「俺、引っ越しとか考えてなくてさ……これから物件探したりするから……」
「おい、ナオ!」
虚ろな目をするナオの肩を大きく揺さぶれば、透明な雫が頬を伝った。
「約束してよ、俺を二番目にしてくれるって……」
「だから、なんでそうなる!?」
「だって、幸太郎はカッコイイもん……誰だって幸太郎に抱かれたいって思うだろうし……」
これは何を言っても無駄だろうと、幸太郎は腹を括った。
とにかく見合いだけはしてくれというのが、副社長命令なのだから、その日までナオを上手く宥めねばならない。
「ゲイはもう卒業していいんだよ、幸太郎」
「ッ!?」
「俺は……幸太郎以外の人、好きになれるかな。幸太郎が俺の初恋だから……」
ナオには幼少時の初恋の記憶というものがない。
男しか好きになれないと知ったのが高校を卒業する辺りのことで、気になる男性なんて周りにいなかったからだ。
だから大学生になって、坂上幸太郎というイケメンと出会ってから、ナオの世界は変わった。
「恋をすると世界が変わる」とはよく言ったもので、幸太郎を好きになってから、ナオの視界は彩り豊かになった。
何もかもが楽しくて、何もかもが新鮮で、幸太郎と過ごせる時間がかけがえのないものだと思えるようになった。
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