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第27話

視界に入る物全てが色褪せて見える。 当然仕事にも集中できない。 今日は幸太郎のお見合いの日当日で、ナオはもうあの家には帰るまいと、小振りのボストンバッグに必要最低限の物を詰めて家を出てきている。 「久住、具合悪いん?」 時折手を止めてはぼんやりしているナオを見かね、同僚の橋本が問いかけてきた。 「具合っていうか……心が壊れた感じがしてるんです」 「そりゃ一大事だ。原因は何だ?仕事のストレス?」 「そうだったら……どんなに楽だったでしょうね……」 そう、仕事のストレスだったら、自分でどうにでもコントロールしてストレスを回避することができる。 だが恋愛になると、それができない。 これは不思議な感覚だなとナオは思う。 自分では制御不能、相手ならいかようにもコントロールができる。 自分のことなのに、相手次第で気分が浮いたり沈んだりを繰り返す。 ちなみに今日のナオの気分は、どん底もいいところだった。 それもそのはず、今日の午後1時から幸太郎とどこかの令嬢とのお見合いが予定されているのだ。 ナオが時計を見ると、そろそろ12時半に差し掛かろうとしている。 「久住、昼メシどうする?」 いつもは橋本と一緒に食事に出るナオだが、今日は全くといっていいほど食欲がない。 朝食も抜いてきていて、辛うじて胃に入っているのはコーヒーくらいのものだ。 「俺は遠慮しておきます」 「食わないのか?持たねーぞ?」 「食べたくないんですよ」 だがそんなやり取りをしていると、室外が騒がしいことに気付いて、橋本とナオは同時に出入口を見つめた。 「ええと、久住ナオって人、いますか?」 「は、はい!」 ナオの名を呼んだのは、面識のない男性だった。 どこか女性味を帯びた顔立ちをしているが、スーツを着用しているせいか男前に見える。 「君、午後半休もらったから、一緒に来てくれる?」 「え?」 「ちょっと、アナタ!まだ半休は受理されてないのよ!?」 男を追って来たのは、人事部長の老齢の女性だった。 「うっせーな、受理されるよう圧力かけとくから心配すんな」 「圧力って!?」 「言葉通りだよ。んじゃ、久住君、行こうか」 ナオは一体何が起こっているのか、全く理解できていなかった。 いきなり美麗な男性が現れ、いきなり午後半休だと言われ、いきなり一緒に来てと言う。 この状況を理解するには、相当な発想の飛躍が必要だなと思うが、今のナオの脳内キャパでは何も考えられそうになく、美麗なビジネスマンの方へと歩き始めた。

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