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第28話

ナオはまだか──。 見合い開始まであと10分。 先方は時間まで来ないと翔から聞いている幸太郎は、「時間よ止まれ」と胸の内で願っていた。 「随分恋人にご執着だな?」 そんな幸太郎を横目に、翔が呆れたような声で言う。 「俺の恋人……何かって言うと、『二番目でいいから』って言うんですよ」 「どういう意味だ?」 「だから……一番は俺の妻になるだろうから、二番目に好きでいてって意味です」 「随分と殊勝なことを言う恋人だな」 「だから、今日帰ったらアイツがいないんじゃないかって不安なんです……一昨日も同棲解消するとか言い出すし……」 とにかくナオのことを考えると居ても立っても居られず、だからこそこの見合いに同席させろと翔に掛け合ったのだ。 そして翔はそれを了承してくれ、今秘書である伊織をナオの会社に迎えに行かせているという状況だった。 時計の針が午後1時を差した時、幸太郎はめかし込んできた戸倉夏美を見ることなく、後ろを振り返って伊織がナオを連れて来たことを確認した。 やっぱり逃げようとしていたのだろう、小さなボストンバッグを持って俯きながら歩いている。 「ナオ!」 「っ!幸太郎……?」 幸太郎は見合いの場に背を向けると、ナオに向かって駆け寄り、その華奢な身体を力一杯抱き締める。 「な、なんで……幸太郎、お見合いは?」 「ああ、見合いの相手ならあっちだ」 幸太郎が指差した方をナオが見ると、どういうことかと問いたそうにあんぐりと口を開けた和装の美女が視界に入った。 口こそ開けていないが、その向かい側に立っている男性も、呆れたという表情を隠そうとしていない。 「行こう、ナオ」 「は!?え、ちょっと待って幸太郎!俺……」 「俺の恋人だ、同席するのは当然のことだ」 「──っ!?」 言葉が胸に沁み込んでくる。 「俺の恋人」と言ってくれたことが嬉しい。 だから同席すべきだと言ってくれたことも嬉しい。 幸太郎の見合い相手には申し訳ないが、ナオだって幸太郎が好きなのだから、「取らないでください」とお願いしてもいいのではないか。 男だからと言って何もかもを諦めてしまったら、ナオに一体何が残るというのだろう。 「幸太郎ってバカだね……会社、クビになってもいいの?」 「ああ、構わねーよ」 「俺のために、人生棒に振るかもしれなくても?」 「お前のためだから、俺の人生棒に振れるってな。見合い、同席してくれるか?」 問われると、ナオは少し涙目になりながら「分かった」と頷いた。

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