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第2話
孝司も直も大好きだ。生まれた時からから育ててもらってる恩人だ。
孝司は正式には叔父。そしては俺は孝司の姉の子。それを隠さず、それでも自分の子のように育ててくれたことに感謝している。
直は孝司の同性の恋人。戸籍上は兄弟だが、所謂ゲイ婚ってやつで、俺と直は戸籍上は兄弟だ。
この界隈では珍しくないゲイ婚。同性同士の事実婚だっているし、さほど珍しくない。
その二人に溺愛され育った俺は劣等感の塊だった。見栄えの良い父親に、男にしておくには勿体ない中性的な顔立ちの美人な義兄。二人が並べばイケメンオーラは計り知れない。この界隈では有名なカップルだった。
なのにお前は冴えないね。そう言われるのが怖いし聞きたくない。そんなことは本人が一番わかっているんだと、魅惑の一階には降りられないのだ。
華やかな世界。キラキラと輝く二人の世界。スポットライトが煌々と二人を照らしている光景。そんな場所に何の遺伝子も継いで生まれなかった俺は近寄れない。
「そんなことはないよ。圭一は可愛い。孝司さんの血が流れているんだから」
その言葉は哀れみにしか聞こえない圭一は、それは親の欲目だと思っている。
どこにいても埋もれてしまいそうな普通を纏っている。何をやっても平凡で飛び抜けたものなど何一つない。そんな自分のことは自分が一番よく知っている。
「家呑みできるんだから、お酒だって…って、圭一に興味がないなら無理にとは言わないけどね」
食べ終えると食後の珈琲がそっと置かれる。孝司の夕飯を作り終え、身支度を整えた直は圭一を申し訳なさそうに見た。
「僕っていつも一言多いよね。ごめんね、圭一。気を悪くしないでね」
何故かいつもこうやって謝る直は血の繋がった叔父と俺、そして血の繋がりのない自分にラインを引いている。
直は俺の家族。俺より先に家族になっていたんだから本当の兄と同じなんだ。そう何度言ってもこんな風に俺に気を使う。それが直の性格なんだってわかってはいるが。
劣等感の塊の弟と、気遣いばかりの兄。それもまた歪だが家族という絆で繋がっている。
身支度を整えた直は仕事仕様の顔になる。その顔は羨ましいくらい綺麗だ。
「直、今日も綺麗だね」
「ありがとう。圭一も可愛い」
やれやれと家族の欲目に溜息を吐き、大好きな義兄の出勤を笑顔で見送る。
「行ってやっしゃい」
「行ってきます」
嬉しそうに店へと繋がるドアを開ける。愛おしい人が待っているから数倍楽しい職場だろうと圭一は二度目の溜息を吐いた。
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