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第4話

「楽しいとは言えないかな…でも嫌ではないよ。疲れてるだけ」 仕事は嫌いじゃない。充実してると言えばしている。職がない人もいる時代に忙しくしているのは幸せなことだとわかっている。 「圭一の会社は有給休暇は取れないのか?」 取れないことはない。取れば誰かが困るというルーティンで誰も取らないだけだ。 「なんか取らせないと企業は国から罰金喰うらしいじゃないか。お前の会社もやばいんじゃないか?」 なんかってなんだよ。手の持っている新聞はダミーなのかと笑ってしまう。どうせ寝ていない頭は回ってないんだろうけど、自分の為にこうやって時間を作ってくれる二人は愛情が溢れている。それこそそれが自分の為だとわかっている。 「そうだね、聞いてみるよ」 くすぐったい愛情を感じながら、愛情たっぷりの朝食を食べた。 玄関先の鏡で身なりをチェックしている間に見送りに来てくれる二人のスタイルも学生の頃から同じだ。二十歳を超えても変える気はないらしい。 「気を付けて行ってこいよ」 「行ってらっしゃい」 ドアが閉まるまで見送って、それが閉まればきっとキスをしているに違いないと、二人だけの時間がそこにあって、二人が愛し合っていることがいつしか幸せだと思うようになっていた。あたかも自分がその時間を作ってやっているんだと言わんばかりに。 疲れの抜けない身体を引きずり満員電車に揺られ会社に着けば、デスクの上の書類の山にゲンナリしパソコンを立ち上げる。メールのチェックと同時に始業準備を始めた。 「堤〜、ちょっといいか」 正午前。呑気そうに課長が手招きをしているのはミーティングルームの前だ。そんな課長に呼ばれることなんてそうそうない空気にピリッと緊張感が走り急いで駆け寄る。何かやってしまったのではないかとヒヤリとする。 軽そうなドアを開け、通された部屋でテーブルを挟み課長の真向かいに立った。 「まあ、座って」 促されるまま、腰を下ろせば何やらテーブルに所狭しと資料を広げた。 「堤くんさ、有休取ったことないよね」 今朝の孝司との話を聞いていたのかと、そんな訳はないのにビクッと体を揺らす。 「取ってないです…」 入社して2年と半年、有休なんて取ったことはない。取れるわけもないのにと悪態を付いてしまう。 「俺もさ、気にしてりゃ良かったんだけど、堤君だけなんだよ有休取ったことない人。他の皆は妻帯者だからさ用事で取ってるんだけど…まずいんだよね、取ってもらわないと…」 そんなことを言われても、この状況でどうやって取れと言うのか。やらなければいけないこと山積みの状態は上司の貴方が一番知っているはずだ。

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