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第6話
早朝からバタバタと自分達も旅行に行くのかと錯覚しそうな準備の仕方に苦笑しながら身支度を整えていた。スーツケースの物を確認していると直がお昼にと捨てられる容器にお弁当を持たせてくれた。機内で軽食は出ると思うのだが直のそんな心遣いに手鞄の中に仕舞った。
孝司の運転で空港に辿り着くと手続きを済ませ搭乗時間を待っていた。そう、もちろん三人で。空港に送り届けてくれるだけではないことははなからわかっていたが、大人になってまでこうやって見送られることにこの先もずっと続いていくんだろうと積み重なるその重い愛情は今では心地良くさえなってくる。
実はどうしても見送りに行くと聞かなかった孝司に苦笑いの直。だからといって直が行ってらっしゃいと家から送るわけでもなく、こうやって乗り込みであろう飛行機を窓越しにぼんやり見つめていた。
「圭一、充電器は持ったか?」
スマホを片手にしている俺に孝司は心配そうに聞いてくる。
なんで、充電器なのか。普通はチケットだと思うのだが。あえてその理由は聞かない圭一は「持った」と応える。
「着いたら連絡忘れるなよ。それとナマモノはやめておけ。胃腸が弱いんだからな」
スーツケースの隅には常備薬がたんまり入れられていた。心配性はどこにでも発揮される。
「わかってる。ちゃんと連絡するから」
「向こうの空港に着いたら正面玄関にフェリー乗り場までの……」
「あーもう、わかってるって!何回も聞いたし、何歳だと思ってんの?わからなければ聞くし……」
「心配なんだよ、圭一、方向音痴だから……」
何気に痛いところを突いてくる直を軽く睨んで「わかったから」とその先の科白を止めた。
どうせ方向音痴だし、腹は弱いし…ってわかってるから。
搭乗アナウンスが流れ、搭乗口へと向かう。チケットを渡し乗り込む人達の流れから外れ、見送っているであろう背後を振り返った。
「降りたらスーツケース忘れるなよ!」
デカイ声で叫ぶ孝司の声に周囲の人がクスクスと笑う。
「ナマモノはダメだからな!」と叫んでまた笑いを誘った。恥ずかしげもなく叫ぶ両親に軽く手を上げて赤くなった顔を俯きながら隠すように振り返らず吸い込まれるように飛行機に乗り込んだ。
座席はファーストクラス。こんな無駄遣いをしてと思ったが、孝司なら当然のことだとここでも溜息を吐いた。
座席は快適。天気は最高。離陸直前まで、いや飛んで見えなくなるまで見送っているだろう二人の見えない視線を感じながら瞼を閉じた。
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