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第9話

他人からしてみれば大したことではないかもしれない。だが圭一にとっては正しく人生を左右する最大の決意だった。 専門学校を出て希望の仕事に就けた。収入もそこそこであって家賃のかからない家もある。 あの家は孝司が苦労して手に入れた城。だからそれを守って行くのは自分の役目だと圭一は思っている。 だが、この歳になって恋人が出来たことがない。もちろん童貞だ。毎日の行動を監視され続けて22年。周りは恋人と楽しそうに付き合っている中、あの二人に隠れて人と付き合うなんてことはできなかった。またそれ以前にモテ期が到来することはなかったのだが。 二人の監視下にある圭一は、孝司のあの情報網からのリサーチ力を知っている。たとえ誰かと付き合うなんてことになれば大騒ぎになる。 普通に恋愛する前に童貞を捨てたい。もうこの際誰でもいい。貰ってくれるなら喜んで差し出そうと思っている。 異常な考え方かもしれないが、孝司と直と暮らし、恋愛が素敵なものだということは充分わかっている。 この休みの間にどうしても童貞捨てたいと圭一は密かに考え計画を立てていた。その次はちゃんと好きになった人とそういったことをしたいと思ってる。一人旅はこと上ないチャンスなんだと思い立てば、いても立ってもいられなく今に至る。 この旅行はダミーだ。圭一の行動を監視する二人はいない。ここから帰るフリをして、安全で健全なアダルトな店に行ってみようと決意していた。休暇返上で脱童貞計画を企てている。 ベッドの横にあるスーツケースを開け手帳を取り出した。 ここにはリサーチした色んな志向の店をリストアップしている。そしてスマホを取り出して何度目かの再確認をし始めた。 まずは、ここを出た後、二人には専門学校時代の友達に会うと連絡をする。荷物を自宅に送り、そのまま飛行機で日本の中心へと向かう。 そこは万全だ。友達には口振りを合わせてくれと頼んである。『女に会いにいくのか』と茶化されたがそんなことはどうでもいい。 そしてホテルに到着。ここも予約済みだ。そこから新宿に向かう。圭一を愛してやまない二人には内緒にしていたが圭一は自分の嗜好を確認したいのもあった。自分が二人と同じゲイであること。それなら今しかないと健全なゲイバーを体験し、少し酔ったところで店を出る。そしてその店の近くにある同性と交われる風俗店に向かう手はずになっている。 これは圭一の人生を賭けたミッション。必ず成功させるとオーシャンビューに浮かぶ夕日に向かい、手帳を胸に抱きしめた。

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