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第19話

どれくらい眠っていたんだろうか。ドアが開く音がして薄っすらと意識が戻ってくる。 カタンと音を鳴らし、人が近づいてくる気配がする。 そしてそっと触れ、頬を撫でてくれる優しい手。これは英二の手だと何故か嬉しさがこみ上げる。 思い瞼を持ち上げると、やはり心配そうに覗き込む英二と目が合った。 「気分はどお?」 優しい声に少し笑ってみせた。 「圭一君は本当に可愛いね。孝司が心配性になるわけだ」 平凡でなんの取り柄もない、一度見たくらいでは覚えてもらえない普通過ぎるくらいの圭一に英二は可愛いと言う。 どこをどう見て言っているのか、それとも孝司の家族だからお世辞を言っているのか。 どうにも腑に落ちないその言葉にふるふると左右に首を振った。 「可愛いところなんて…ないですよ…」 絞り出すように放った声は聞いたこともないような掠れた声で、ヒリヒリと喉を痛みが走る。 「いっぱい声出したからね。枯れちゃったね」 テーブルに置いたミネラルウォーターをグラスに注いでくれる。 ああそうだったね。と、起き上がれない身体を支え枕を腰に差し込んでくれた。 冷たい水が染み込んでいくようで美味しい。枯れた身体が瑞々しく生き返っていくような、そんな感覚がした。 「ありがとうございます」 声を絞り出してお礼を言えば、クスッと笑ってまた注いでくれた。そうしてペットボトルを一本まるごと飲み干してしまった。 「食欲ある?圭一君、朝からずっと眠ってて…お腹空いてない?」 そう言われれば、水が染み込んで胃が動いたのか、なんとなく空腹感が出てきたような気がした。 「その顔は食べれそうだね。ここに運ぶから」 スマホを取り出して誰かに電話を掛け、終わったと同時にベッドの縁に腰掛けた。 「圭一君、何があったか覚えてる?」 そう真っ直ぐに聞かれて、かぁっと頬が熱くなった。 何があったか、身体の重怠い感じと、動かせば軋む身体ではっきりとは思い出せなくてもおおよその感じは掴めているが、それを口に出すのが恥ずかしく俯いてしまう。 「わかってればいんだ。忘れてもらちゃ困るからね」 忘れると困ると言うのはどういうことなのか。意味がわからなくて圭一は首を傾げた。 「だってそうだろ。初体験が有耶無耶なままだと困るからね。君の初体験はこれから先、ずっと刺激的ないい思い出になってほしいからさ」 刺激的ないい思い出…圭一はその言葉の意図がわからず、何度もその科白を反芻していた。

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