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第20話

暖かいスープと、クロワッサンを持った楓が、英二が開けたドアから顔を見せた。 「圭一君、起きたんだね。ずっと眠ってるから心配しちゃった」 何度も様子を見にきてくれていたんだろうその言葉と、手に持っていたトレイの下から脚を取り出し小さなテーブルを作って圭一のそばに置いた。 「軽いものがいいかなって思ってね」 脇に置かれていたスプーンを取り出して渡してくれる。美味しそうな匂いが鼻をくすぐり、一気に空腹感が増した気がした。 クラムチャウダーは圭一の大好物だ。それにクロワッサンも。直がいつも作ってくれるクラムチャウダーが大好きで子供の頃はよくせがんで作ってもらった。 「美味しい…」 二人は顔を見合わせて笑う。その味は懐かしく直が作ってくれるものと同じ気がした。まさか…とふと過ぎったがあり得ないとクラムチャウダーを味わった。 「お口にあって良かった」 隣のソファに座った楓はそう言い、コーヒーを入れ始めた。 「身体…辛い?」 視線はコーヒーに向けたまま楓が聞いてくる。圭一はスープに視線を落としたまま左右に首を振った。 「身体時は怠いですけど…心は軽い気がしてます…もう少し時間が経てばもっと軽くなりそう…」 言葉にするとそんな気がしてきた圭一はクロワッサンをペロリと平らげ、スープを綺麗に飲み干した。 「ミルク多めだよ。沢山頑張ったから、ね」 沢山頑張ったと、そんな風に言われると、火が付いたように顔が熱くなる。それを見た二人はクスクスと笑った。大好物のカフェオレを受け取り、一口、口に含んだ。 「明日帰しちゃうのやだなぁって思っちゃうから、その顔はやめようね」 目の前のテーブルを退けてくれ、その横に楓も腰を下ろす。 「今晩も頑張れそう?僕達はいつでも大歓迎だよ」 楓の科白でリアルな現実を思い出させ、仰け反るように腰を引いた。 「ははっ、そんな逃げなくても、今ここで襲ったりしないよ」 英二はからかうように物騒なことを口走り声を上げて笑った。 「…なんか…ありがとうございます…ってなんか変だ…」 圭一は何故かお礼が言いたくなってボソボソと呟くと、二人はまた声を上げて笑う。 襲われたとか、犯されたなんてことは思っていない。ただなんとなく心が軽くなって、そう言わずにはいられなかった。 どんな形であれ、自分が思っていたものよりずっと心は軽なり、喪失感もなく満たされている何かを感じていた。

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