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第21話

「もう少し休んでるといいよ」 そう言い残して二人は部屋を出ていった。身体をベッドの側の壁に背を預け海を見つめる。夕焼けが綺麗に水面に映っている。 ここにきてから夕焼けしか見ていないことに気付いた。日が陰るまでに海岸に降りてみたい、そう思いつき怠い身体を起こし立ち上がった。 ズンっと重怠さが身体を襲う。孔には何かが挟まっているような感覚と下腹部がいやに重い気がした。 ソファに綺麗に畳まれた服をモタモタしながら袖を通し靴を履く。急く気持ちのドアを押し開けてみれば外は少しひんやりした海風がサラサラと髪を梳いていく。 楓さんと出会った階段を降りると、砂浜はゴミひとつなく整地されていて歩きやすい。傍に少し狭い歩道が石畳のようにずっと先まで繋がっている。 波の音を聞きながらゆっくりと遊歩道を歩いていく。 ここにきて良かった。孝司が勧めてくれたときは、正直二人の時間を作って上げたいと思った。 自分が家にいれば好きな時にキスをして抱き合うことさえ出来なかっただろうと。生活のリズムが違う分、自分が仕事に行けばその間は自由だろうけど、あの二人にはずっと二人の時間を楽しむことさえ出来なかったのだからと。 そこからこれを期に童貞を捨てるという計画に走ってしまったわけだけど、初めての経験があの人達で良かったと思ってる。 確かに一対一ってわけではなかったけど気持ちいいことしかなかった。優しく抱いてくれたし抱かせてくれた。 同時に失うことになるとは思っていなかったけど、これはこれですごい経験だと思う。 満たされた何か。それは初めてを奪われたわけではなく、初めての経験は刺激的な一生忘れられない思い出になると嬉しさと感謝の想いが込み上げてきていた。 景色を見ながらたどり着いた地平線しか見えない場所。そこに置かれたベンチに腰を下ろした。きっとこの絶景を楽しむ為に置かれたことは一目瞭然だ。 ホテル…キャンセルしないとな… もう捨てるモノもなくなったわけだし、都心に向かう意味もなくなった。 今思えば、見ず知らずの人と身体を合わせ残った感情は虚しさだけだったんじゃないのかと、自分の軽はずみな暴走で一生思い出したくもない思い出になるところだったと大きな溜息を吐いた。 「ここにいたのか…」 その甘い声でブワァッと蘇る昨夜の情事。この声に惑わされて圭一は落ちていった。 「優さん…」 爽やかな笑顔で歩み寄り、英二とは違う香水を匂わせ圭一の隣に腰掛けた。

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