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第13話
甘い匂い…
砂糖?
メイプルシロップ?
そんな甘い匂い…
次に目が覚めた時は、部屋が明るかった。
「ん~…」
軽く伸びをして寝返りを打った。
キシキシベッドが軋む。
開いたカーテンから射し込むお日様の光が顔を照らした。
思わず目を細めると、すぐに影が出来てゆっくり目を開いた。
「目が覚めましたか?」
影の正体はあの人だ。
その人は、俺を覗き込むように立ってた。
スーツをパシッと着こなして、凄く美人なあの人…
美人だけど、儚くて淋しげなあの人…
「あ、はい…。あの、助けてくれたんですよね?ありがとうございます…」
「いえ。凄く驚きましたが…」
「ですよね。高級ホテルに顔潰れかけた血塗れが踞ってたら誰だってビックリしますよね。」
「ふふ、まるで他人事のように話すのですね。」
その人は、少し肩を揺らしながら口に手をあてて上品に笑った。
言葉遣いも、雰囲気も、動きの一つ一つまで上品で全然俺とは違うタイプの人だ。
俺なんて少し油断したらタメ口になりそうだし。
助けてくれた人なんだから、失礼をしちゃいけないって頑張ってるけど…
どこまで堪えられるか…
「いやぁ~でも、ホントに助かりました。あのままだったらすぐに捕まって殺されてたかも…」
あり得ない話じゃない。
ホントにそうなっていたかもしれない。
そう思うゾッとして血の気が引く。
「何があったかは知りませんけれど、怖い思いをしたのですね…」
「ん………っ…ご…ごわ、ごわがっ…だ…ごわがっだよぉ~」
凄く優しい声で言われたから、なんだかホッとして怖さやら虚しさやら痛さやら情けなさやらが全部引っ括めて涙になって吹き出してきた。
「おやおや、まったく、子どもでもないのに仕方がありませんね…」
その人はそう言って、泣きじゃくる俺にティッシュのボックスを渡して、隣に腰を掛けて背中を擦ってくれた。
シュッシュッと2、3枚ティッシュを出して、それを目にあてながらギャン泣きする俺に、ずっと寄り添ってくれた。
その優しさが、胸に響いてなかなか泣き止めなかった。
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