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あふれあふれ
恋人たちが浮かれる日は一年のうちにいくらでもあるけれど、今日くらいは君も浮かれてほしい。
そんな想いを秘めながら俺は息抜きがてら買い物に出掛けた。
君にも息抜きをしてほしいと思いながら、甘いチョコレートをお洒落な包みに入れてもらった。
「ふふっ……我ながら商売戦略に乗ってしまった……」
たまには俗世のイベントに乗っかるのも楽しいものだ。
そんなことを考えながら俺は帰宅した。家の中には甘い匂いが広がっており、幸せな気分にさせられる。
「ただいまー。今日は何かなー?」
匂いで何か分かっている。君も流行りものを、俺のために手作りしてくれている。
「ガトーショコラだ。今日はいつも以上に頑張った」
「ありがと。じゃあ……あーん」
「行儀が悪い」
俺のことを叱りながらも、君はできたばかりのものを一口差し出してくる。
甘いだけではない、ほんのりとした苦味が広がってくる。柔らかい感触を何度も噛みしめて味わっていくと、あっという間になくなってしまった。
「美味しい」
恐らくこれは、どんなに温度が変化しても美味しいに決まっている。
俺に対する君の気持ちということだろうか。
「ふふっ」
「どうした?」
「何でもないよ」
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