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第7話

 ばたばたと慌ただしい声と共に、その人が僕の首筋に指を這わせて、そして覗き込んできた。 「体は動かせる? 動かせるなら瞬き二回して」  女性の声だ。必死で、緊張している女性の声だ。  僕は瞬きしないで少し頭を振った。 「だめ。動かないで。お願いだから動かないで」  理由は分からなかったけど、言われたとおりに瞬きをする。  するとぽたぽたと顔に何かが落ちた。 「ごめんなさいね。つい、五年も眠っていたから、信じられなくて」  五年……?  この女性は誰だろう。看護師さん?  ここは……病院?  まだはっきりしない微睡む意識の中、大きな足音がベットに響いてきた。 「差尻さん、まじっすか!」 「……っ」 二つの足音。騒がしい方の声は、看護師さんに引きずられて廊下へ出ていく。 何も言わない足音は、荒い息を整えながら僕に近づいてくる。 「風海……っ」 ぼやけた視界の中、近づいてくる顔。 その顔が、遼だと気づいて涙が込み上げてきた。 身体は動かない。目を動かすだけで頭が痛む。 意識もぼんやりしていて、遼の顔がかすんでる。 声も上げられないのに、笑おうとすると乾いた唇がピリピリ痛いのに、遼がいる。 それだけで夢でもいい。幸せだと感じられた。 まだ視界はぼやけて、物を認識できていなくて、自分の体じゃないぐらい、脱ぎ捨てたいぐらい重いし億劫だし、状況が分からないのに、――僕は今、幸せだった。 「風海さん!」 手放す意識の中、もう一度聞こえてきた声は、知っている。 ただ誰かもわからず、僕は再び重たい瞼を閉じた。

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