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第8話
『大丈夫だって』
『でも僕、泳げないし』
『あっちの岩場までだからすぐだろ、誰にも見えないし、あそこで日が沈みながらエッチしてみたいんだよな』
な、って可愛く遼に言われて、断れなかった。
高校時代から付き合って、遼がどれだけ女の子にもてるか散々知っている。
遼が僕と違って、女の子を抱けるのも知っている。……知っちゃった。
だから、僕は必死だったんだと思う。遼に嫌われたら、僕にはもう同性と恋愛は無理だなって自覚があったし。
大学四年の夏休みだった。
僕は一応、小さい校正会社で翻訳家として就職が決まって、遼もインストラクターとして無事に就職先が決まった夏の日だった。
遼が、水上バイクの免許を取った日だった。正確には特殊小型船操縦士免許というらしく、講習とか実践の練習が楽しかったらしく興奮が収まっていないようだった。
その興奮のまま、僕を乗せて、岩場まで運び、そこでエッチがしたいという。
昨日もしたし、一昨日もした気がするんだけど。
高校から付き合って、会えばヤッてばかりだったけど、――女の子に盗られたくないし、楽しそうに話す遼を見るのは好きだし承諾した。
ただ、ヘルメットをしたいって言った僕に、大げさだって笑い飛ばしたし、ライフジャケットも一着しかないからとお互い装着しなかった。
それがいけなかったんだけど、話に夢中になった遼が大きな波に視界を遮られ、岩場までの距離が分からなくなったところで、大きな衝撃とともに海に投げ飛ばされたんだ。
海に投げ飛ばされて、岩礁に頭を2、3度打ったことだけは覚えている。
海の青が、僕が流す赤い血で汚れていくところで、視界がぼやけて――意識がなくなったのも。
僕にとっては昨日のことのように、傷みさえも覚えていた。
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