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第23話

穏やかに少し微笑みながら差尻さんは、目を伏せた。 「あの子には、君は特別なの。それで、遼くんが許せないんじゃないかな」 僕が特別? それで、遼が許せない? 「……何があったんですか。僕はまだ、彼を思い出せていない」 「えーっと、うーん。私が怒られちゃうな」 なんて笑いながら、差尻さんは僕を支えてベットに移すと、ベットに座る僕を見上げる形で座り込んだ。 「昔ね、溺れてる女の子を助けようとして征孜くんが海に飛び込んだことがあるの。小学生の時だったかな。ふふ。荒れてたのよね、あの子」 「……征孜くんが」 「で、君が征孜くんを助けたんだよ」 綺麗に磨かれた爪。 伸ばされた指は、僕の鼻をつんっと押した。 「知らないですけど、それ」 「そうなの。助けてもらったお礼をしたかった征孜くんは、君を尋ねたら覚えてなかったらしいの。しかも泳げなくなってて、海が怖くなったって言ってたかな」 「……知らない」 そういえば、僕が泳げなくなったのは中学の時だ。 中学の時、なぜかいつも見学していたっけ。 「多分ね、君は自分を守るために、怖い記憶を忘れちゃう人なんじゃないかな。偶にいるんだよ。本当に最初から経験してないように、忘れちゃう人」 綺麗な瞳に覗かれても、信じられなかった。 「だから、もしかして貴方は、事故の記憶もすっぽり忘れてる可能性がある人なの」

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