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第29話

「はは……男同士で痴話げんかって、なに? 気持ち悪い」 「風海、俺が悪いんだ。お願いだから、本音を言ってくれ」 「本音を、ね。分かった」 懇願されたんだ。僕は悪くない。 「ほかの女性を抱ける遼とは、二度と会いたくないよ」 そういわなければ、縋ってしまいそう。 この先、友達のふりをするのさえ苦しい。 本当は、もっと叫びたいぐらい、醜悪な感情で胃の中がぐるぐるしてるよ。 でも君を解放するのは、傷つけて二度と会いたくないって思わせるしかないじゃないか。 「最低だよ。二度と顔を見せないで」 僕を忘れて幸せになって。 僕を二度と見ないで。 君がそばいない未来なんて想像できない、惨めな僕のことを二度と見ないでほしい。 「風海」 遼は、苦しそうな顔をしていたが何か必死で僕に話しかけようとしていた。 けれど、僕が弱いので途中から遼の声が全く耳に届かなくなった。 パクパクと口を開けて必死にしゃべっている遼の声が聞こえなくなった。 都合のいい、逃げることだけには長けている僕の体は、遼を拒絶し出していた。 結局、ナースコールを押して助けを呼んだ。 差尻さんではなく、院長が来て、その後はよく覚えていない。 院長が遼をしかりつけたのを、ほっと安堵した気持ちで見ていただけ。 その後の僕の体は、感情と切り離されたように意志に関係なく動いていたように思う。

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