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第32話

「階段の方が、練習になるんだ」 「あの人のことで、傷ついて自棄を起こしてませんか」 泣きすぎた顔を見られたくなくて、近づいてくる征孜から逃げるように後ろへと下がる。 「貴方が起きた時点で、あいつには消えてもらえばよかった。せめて心が安定するまで、目の前に現れなかったらよかったのに」 なんで。 なんで征孜くんが辛そうな顔をするんだ。 「明日から、ゆっくりリハビリしていきましょう。階段はまだ危ないです」 「……危ないの、階段」 「そうですね。まだ立ち上がるのも一人では無理な風海さんでは、危険ですよ」 「そう。危険なんだ」 後ろへ下がる車椅子の音が、キイキイと大きく響いた。 「じゃあ、ここから転倒したら、ただの事故かな」 「事故じゃすみません。貴方はまだ羽化したばかりの柔らかい体のようなものです。だから一回、戻――」 焦るような征孜くんに、僕は微笑んだ。 「もう何も戻れないんだよ。ごめんね」

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