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第34話
カラカラと、階段の一番下で車椅子のタイヤが回っている。
僕は、一番下まで落ちていない。
腕を掴まれて、征孜くんに階段の途中で抱き止められていた。
「なんで」
絞るような、かすれた声。
「なんで、……なんで、あんな奴のせいで俺の大切な風海さんが死なないといけないんだ」
「征孜くん」
「俺が大切な貴方を、あなた自身が大切にしないなら……その命、俺が貰います」
ポタポタと僕の頬に涙が落ちていく。
顔をあげたら、征孜くんが歯を食いしばって泣くのをこらえているのが分かった。
抱き留めていない方の手は、階段の手すりを握っている。
手すりを握っていた手を離すと、手を振りかざされた。
殴られるのかと目を閉じると、その手は僕の後ろ頭を掴んで引き寄せる。
「おれじゃ駄目ですか」
海の中に消えてしまいたかった僕に、君は手を差し出してくれたね。
「俺じゃ、貴方の生きる希望になりませんか」
「……征孜くん」
「絶対に貴方の命は、俺が貰う。絶対に返さない。貴方にも――あいつにも。俺のものだ」
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