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第35話
どこからか、バタバタと足音がする。きっとこの音に看護師さんたちが駆けつけてきたんだろう。
「俺、貴方とあいつが言い争いをしていたのを、五年前に見てました」
「え」
「あいつがひどい言葉を投げつけて、貴方の気持ちを試していた。貴方が、背を向けられた瞬間、泣いていたのを、今も忘れられない。あの時、あいつを殴っていたらよかった」
「見てたの? ……気づいてたの?」
「そうです。中学の時から付き合ってましたよね? 溺れてる俺を助けた時もすでに付き合ってましたよね?」
顔が熱くなった。気づかれていたのか。最初から全部知っていたんだ。
「俺は、あいつを許す気はないし貴方が死ぬなら、さきにあいつを本当に殺します」
「物騒だよ」
征孜くんはふっと柔らかく笑って、僕を抱えたまま車椅子まで降り、そして僕を車椅子の上に乗せた。
少しタイヤが曲がったのか、うまく進まない。それなのに、むりやり廊下に出ようとする。
「貴方に今足りないのは、絶望から抜け出す光ですね」
車椅子の上で、僕は無力な自分に絶望していた。
確かに、真っ暗な暗闇の中だ。
「貴方に朝が来ますように。俺は全力で貴方のそばで、朝が来るまで傍にいます」
ポタポタと流れ落ちる涙。
鼻を伝って、自分の弱弱しい足に落ちてズボンを濡らしていく。
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