36 / 138
第36話
真っ暗な夜、音は大きく響くらしい。
僕は、その暗闇で大きな音を聞いてしまった。
征孜くんの言葉が暗闇で僕を照らした。
嬉しかった。誰にも必要とされない僕を、必死で抱きしめてくれた。
泣いてくれた。
僕を、離さないって言ってくれた。
遼が好きな僕を、否定しないで怒ってくれた。
だから。
だから、僕は君を選ばないよ。
恋愛はもうやめる。こんなに心も体も傷ついてしまうなら、僕はもう恋愛なんてしない。
したくない。
君を心の拠り所にしてしまったら、遼の二の舞いだろ。
僕は、もう誰も好きにならないよ。
でも君みたいに優しい人も、この世界にはいる。
「……風海さん、院長が来ちゃったっすね。言い訳、考えてませんよね?」
「うん」
「じゃあ俺が何とか言い訳考えるんで、それに合わせてください」
「うん」
「明日からも、貴方の作業療法士でいてもいいですか?」
申し訳なさそうに征孜くんが言う。
けれど、さっきまでの強引な君はどうしたんだ。矛盾してるじゃないか。
「僕、こんな風にすぐ迷惑かけちゃうから嫌にならないかな」
ともだちにシェアしよう!