37 / 138

第37話

「絶対に迷惑じゃないです。風海さんは、俺に気を使ってはいけません。我儘だけ。それでいいです」 「……うん」 俺のことを好きになって、とは言わないらしい。 俺じゃ駄目ですかって言ったくせに。 結局駆け付けた院長や看護師さんに、色々問い詰められたのだけど、征孜くんが僕の代わりに対応してくれた。 『親友の結婚式に参加したくて、自分で過度なリハビリをしていた。夜中もしようとしていたら階段から転落しそうになった』 僕だったらところどころ詰まって上手く言い訳なんてできなかったと思う。 だから、征孜くんには感謝だ。 ……遼は。 今は遼のことを思うと、胸が痛い。 楽しかった思い出とか好きだった気持ちがあふれてきて、どれが心から流れて、僕を海のように深い思考に沈めてしまう。 今は考えたらいけないんだ。あふれてしまうから。 いつか閉じ込めたこの思いのどこかに穴をあけて、少しずつ流して心から消えてしまうまで。 僕は蓋を閉じた。 空はまだ夜が明けていない。 征孜くんが簡易ベットをどこからか持って来て、僕の方を監視している。 その日は諦めて眠った。 そして起きたら、左手に激痛が走って悲鳴を上げてしまったのだった。

ともだちにシェアしよう!