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第38話
左手を骨折していたのに気づいたのは、興奮が冷めた朝。
夜は興奮していたし、あちこち痛かったし、隣の征孜くんの視線で緊張していたし。
「痛い感覚があるなら神経は傷ついてないし、出血もない。俺が昨日、掴んだから? そういえば腕を掴んで引き上げた」
「大丈夫だよ。骨が弱ってたんだろうし。痛み止めが聞いてるし、それに腕を引っ張ってくれなかったら落ちてたんだよ。軽症で済んでよかったよ」
「風海さん……天使かよ。分かりました。俺がアイツを同じ目に合わせてきます」
「征孜くんっ」
おろおろしている征孜くんは、年相応で可愛いんだけど、だけど。
「あの、何してるの?」
なぜか簡易ベットの上に、旅行バッグやら携帯の充電器やら色々と置いて冷蔵庫にお茶まで入れ出した。
「何って、しばらく貴方が変な気を起こさないように、俺もここに泊まります」
「ぷ、プライベート……いや、プライバシーが」
「仕方ないですよ。夜ってネガティブになりやすいから。夜は、俺がすべらない話でも毎日聞かせます。千夜一夜物語でもいいけど」
「さ、差尻さん」
慌ててナースコールを押すと、一分もしないで飛んできてくれた。
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