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第39話

「あらあ、駄目よ。うちは小児科以外は付き添いは駄目なのよ」  まともな意見に、僕も何度も何度も頷く。  そうだ。同じ部屋に征孜くんがいるとか、そんなの駄目だ。 「でもお、征孜くんはこの病院のご子息で私はしがない雇われ看護師。ああ、悲しいかな。権力には逆らえないわ」 なぜか棒読みで差尻さんはまるで台本を読むかのようにスラスラ言った後、僕の体温チェックを素早く済ませて、わざとらしくよろめいた。 「患者第一の病院で、権力に負けるわけにもいかないわ。どうしても彼が心配なら、廊下で寝て」 「ろ!?」 「そうですね。仕方ないから、待合室で寝ます。権力を使ったらいけないですしね」 「えええ?」 二人はまるで茶番のようなセリフを言いまわし、去って行った。 いや、去って行っても簡易ベットはそのままあるんだけど、どうなってるのかな。 しかも今日からシャワー許可が下りていたから、征孜くんが補助についてくれるって言ってたけど、この腕だしどうなるんだろう。 身体は拭いて、髪は洗ってもらうって感じになるのかな。 「あ、忘れてました。風海さん」 「え?」 ひょいっと戻ってきた征孜くんが、厚めの茶封筒を持って来て渡してきた。 片手で持つと、ずっしりと重たい。ひっくり返すと、僕が働くはずだった翻訳会社の社名が入っている。 「ここ、常に人手不足らしくて、風海さんさえよければ、いつでも雇ってくれるって言ってました」 「……嘘」 「主に外国映画のパンフレットと絵本の翻訳、実績ができたら長編の児童書や映画の字幕、系列で通訳の会社もしているらしく、そっちに派遣される場合もあるって」

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