46 / 138
第46話
Side:一条 征孜
忘れられない日が、二回ある。
一度目は、俺の命を助けてくれた人魚のようにたおやかな風海さんを見た日。
二度目は、あいつが泣いている風海さんに気付いているくせに、それを見て安堵している卑怯者だと知った日。
二度目の光景は、偶にフラッシュバックしてしまう。
必死であいつの背中にしがみついていた風海さんだったが、あいつは急にふらふら運転しだして、そして風海さんを海に突き飛ばし、自分は岩にぶつかった。
そうだ。あれは事故なんかじゃない。
事故じゃない。
俺は、あいつに言った。
『全部、見てましたよ。言い争いした後、不慮の事故が起こるまで、見てましたよ』
いつも堂々としていてどっしり構えている遼兄ちゃんから、さあっと血の気が引くのが分かった。
『事故で済ますの? もう少しで人殺しだったくせに』
胸倉をつかんだが、あいつは顔を背けて抵抗しなかった。
『誰にも言わないでくれ、あいつのためにも、言わないでほしい』
『……あいつのため? 今、集中治療室で生死の境をさ迷っている風海さんのため? ふざけるなよ!』
思いっきり殴り飛ばすと、廊下の向こうから差尻さんが走ってくるのが見えた。
『何をやってるのっ』
ともだちにシェアしよう!