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第53話

「……僕さ、気づいた時にはこうだったんだよ」 「こう?」 まあ生まれた時から、可愛かったんだろうな。 赤ちゃんの時とか、絶対に天使みたいに可愛い。写真が欲しいし見てみたい。 「……同性が恋愛対象ってこと」 なんか真面目に話して、緊張してるんだけど、君の前だと馬鹿らしくなるね、ともう限界だったのか車椅子に自分から乗った。 ああ、恋愛対象が男性ということか。 それは俺にもチャンスがあるってことで嬉しい、やったぜ、ぐらいの感想しかない。 車椅子を後ろから押しながら、俺はその言葉は飲み込んで気の利いた言葉を探す。 けれど、着飾った言葉は浮かばないし、素直に言うしかない。 「異性を好きになるのが普通で、同性を好きになるのは異常なの?」 「普通はそうでしょ。僕はどうしても女性の柔らかい体に魅力を感じなくて」 「あー仕方ないですね。諦めましょ」 廊下を曲がるが、お昼すぎだからか廊下には誰もいない。 シャンプー台は貸し切りで使えそうだ。 「仕方ないって?」 「俺と結ばれるために、風海さんは異性に魅力を感じないんすよ」 「あのねえ」 「俺がお腹の中で呪ってたんです。俺以外を好きになるなああ、女は駄目だああ」 「……君がお腹の中って、すでに僕は何歳だよ」 真面目に話す気ないね、とあきれ気味だったけどなんだか少し気分はよさそうだった。 異常ではないよ。 でも当たり前のことで悩んでるあなたに、その言葉は響かないんじゃないかなって思っただけ。 どさくさに紛れて口説きたかったしね。

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