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第54話

「というか、風海さんは真面目すぎる。真面目な思考もリハビリしましょうね」 少しでも目を離したら、消えてしまいそうな人。 一秒も目を離してしまいたくない。 昨日だって、そうだ。 あいつが婚約しているなんて聞いて、そのまま自殺してしまうんじゃないかって病院に忘れ物を取りに行くふりをして、何時間も部屋の近くで待機していたのが正解だった。 あの人、屋上に上って飛び降りようとしていたのか、階段を降りて海まで飛び込みに行こうとしたのか分からないけど、きっと本気で消えようとしていた。 そんなこと、絶対にしない。 「でも真面目な風海さんも素敵なんだよなあ。どうしよう。どうすっかな」 「どうもしないでいいよ。それよりシャンプー本当に大丈夫なのかい?」 風海さんは気持ちを切り替えているようで、シャンプー台に向かう廊下で少し声が弾んでいる。 水で洗わないシャンプーってやつで髪を梳かしていたから、お風呂を入れてないことを気にしているようだったし。 それはきっとあいつと会うからだろうな。あいつ、すげえ香水臭いし。 『お願いだ。誰にも言わないでくれ』 本当に――本当に風海さんのためならば言わないでおく。 でも、風海さんが事故の日のあの会話をすべて思い出していて、事故の原因が分かったら、それがあいつのせいだったら許さない。

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