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第56話

「一番好きなのは、貴方ですけどね」 「はいはい」 「今日の俺の日誌『風海さんはツンデレ』って書きますよ」 「ふふ、ウソツキ」 書かないでしょ、って笑われた。 まあ確かに書きませんよ、貴方を傷つける言葉なんて。 でももう少しだけ、もう少しだけ心の距離が近づいてほしいなって思う。 それはわがままだと否定しないでほしい。 「はー。風海さんの髪に触るとか緊張する。やっべ」 「君は……しゃべらない方が格好いいってよく言われる?」 「最近言われます」 風海さんは、だろうねってまた笑った。 「シャンプー台ってさ、美容室で薄い頼りない布で目を隠してくれるけど、洗ってたら動くじゃない。あれが苦手でさ」 「ああ、わかります。でも俺はしません」 「……え?」 「風海さんと見つめ合ってシャンプーしたいから、布で隠しません」 俺がそう堂々と言い放った直後、彼がナースコールを押したのだけは、この先一生解せないだろう。

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