58 / 138

第58話

久しぶりに洗ったからか、髪は一度目のシャンプーでは泡立たず、二回目のシャンプーでようやく泡立った。 柔らかく、絹のように細い彼の髪を掬うたびに言いしれぬ恋情が胸を飛び出て破裂しそうになる。 いつか……。いつか、金髪の生意気な俺のことを思い出してくれたらいい。 思い出してくれたら、ゆっくりとリハビリしていってほしい。 「終わりましたよ。風海さんは髪すらも繊細でやばいですね」 終わったからと、窓を閉めてカーテンで窓を覆う。 すると、起き上がった風海さんが自分の髪を片手で撫で上げて、嬉しそうに顔を綻ばせた。 「うん。ありがとう。大満足だよ」 「うっ」 思わず胸を押さえてうずくまる。駄目だ。可愛い。この人、可愛い。 「何してるの?」 「気にしないでください。俺、病気なんです。海で溺れた時から、不治の病なんです」 「大丈夫?」 心配そうに俺の顔を覗き込む風海さんに、俺は我慢できなかった。 「大丈ばないです。ずっと、恋心が苦しいです」 だから、俺の気持ちを風海さんの唇に押し付けた。 驚いて目を見開く彼は、俺に容赦ない平手打ちを食らわせたけど、それすらも今の俺にはご褒美だった。

ともだちにシェアしよう!