59 / 138

第59話

「……唇」 「へへ。風海さんが生きていたご褒美です」 「どっちにどんなご褒美だよ」  もっと怒られるかと身構えていたけど、風海さんからのリアクションは薄かった。  思っていた反応が返ってこないので、首を傾げてしまう。 「僕も庭に出てみてもいいだろうか」 「もちろんですよ。あ、痛み止めは一日三回でしたよね。飲みました?」 「うん」 そこで会話は途切れてしまった。 あれれれ? この静かな沈黙は、やっぱキスに怒ってるのかな。 それとも、呆れてる? いや、俺みたいな年下のガキにキスされたぐらいなんでもない? そりゃあ、あの遼ってやつはねちっこくてケダモノみたいな、束縛ばっしばしのキスしそうだけど。 エレベーターに乗り、下のボタンを押しつつ横目で風海さんの方を見る。 いつもの、優しい顔だ。 さっきのキスなんてもう忘れているような、涼し気な顔。 「えーっと」 「そんな風に、キスした方が慌てるのっておかしいね」 目を閉じて、ふふっと笑うと顔を背けられた。 「今の僕には君のキスを拒むほど体力も戻っていないのに、卑怯者だね」

ともだちにシェアしよう!