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第59話
「……唇」
「へへ。風海さんが生きていたご褒美です」
「どっちにどんなご褒美だよ」
もっと怒られるかと身構えていたけど、風海さんからのリアクションは薄かった。
思っていた反応が返ってこないので、首を傾げてしまう。
「僕も庭に出てみてもいいだろうか」
「もちろんですよ。あ、痛み止めは一日三回でしたよね。飲みました?」
「うん」
そこで会話は途切れてしまった。
あれれれ?
この静かな沈黙は、やっぱキスに怒ってるのかな。
それとも、呆れてる?
いや、俺みたいな年下のガキにキスされたぐらいなんでもない?
そりゃあ、あの遼ってやつはねちっこくてケダモノみたいな、束縛ばっしばしのキスしそうだけど。
エレベーターに乗り、下のボタンを押しつつ横目で風海さんの方を見る。
いつもの、優しい顔だ。
さっきのキスなんてもう忘れているような、涼し気な顔。
「えーっと」
「そんな風に、キスした方が慌てるのっておかしいね」
目を閉じて、ふふっと笑うと顔を背けられた。
「今の僕には君のキスを拒むほど体力も戻っていないのに、卑怯者だね」
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