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第60話
「やっぱ怒ってます?」
「自分にね。君を殴り返すような度胸も力もない自分に呆れて惨めで、悪い方に考えそうだから、やめたよ」
あちゃあ。俺のキスしたいって感情だけの行動で、彼を傷つけてしまった。
そんなつもりじゃなかったんだっていうのは、起こった後では言い訳にしかならない。
「貴方が体力戻って、俺を殴り返す度胸や体力が戻ったらまたします」
「……それだけ? それだけで傷ついた僕の心が癒えるとでも?」
ふうん、と横目で冷たく一瞥されると、今すぐ土下座してなかったことにしたいぐらい気持ちが焦ってしまう。
どうしたらいいだろう。
どうしたら彼の機嫌が戻ってくれるんだ。
本気で怒った風海さんは、静かなのか。今度は怒らせないようにしよう。
「僕ね、作業療法士さん」
「はい!」
「海が見たいな」
「海、ですか」
確かにうちの病院からは海沿いなので、砂浜はよく見える。
でもすぐそこだけど、一応外出届とかいるし、下手したらサーフィンしてる遼がいるかもしれないし。
「……我儘だったね。帰ろう。いいよ、別に」
いいよってって言いながら頬を明らかに膨らませてるじゃないか。
昨日のこともあり、今日無断外出してもいいことはない。
急いで内線で、差尻さんに外出許可を出してもらえるようお願いして、先にロビーまで向かう。
「帰らないんですか?」
「今帰ったら、風海さん、絶対しばらく静かに怒るでしょ。俺の反省をしってほしいので頑張ります」
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