61 / 138
第61話
「……そこまでしなくていいのに」
今のは俺に何千万ダメージが降ってきた。
が、殴りたいけど頬を叩くぐらいしかできなかった風海さんにキスをしてしまった俺の、反省はちゃんとしなければいけないのだ。
「風海さん、俺はこの奇跡を大切にしたいんです」
ほぼ植物状態で寝たきりだった人間が、五年も経って突然目覚めたこと。
目覚めても脳障害が残り、ほぼ日常生活なんてできない。寝たきりを強いられる方が多いこと。
でも風海さんはまだ若かったこともあるし、脳のダメージもなく障害もない。
今はまだ出てないかもしれないけど、もう一人で立ち上がることだってできる。
前例がない奇跡を、俺の好きな人が起こしたんだ。
「奇跡を起こした貴方が、もう二度と夜に絶望しないように俺は貴方の未来を守りたいし、寄り添いたい」
ふわっと髪が風に攫われる。この病院で使っているシャンプーは駄目だ。今度は彼の髪にあった良いシャンプーにしてあげなければいけない。
奇跡は起きたんだ。それはきっとあなたが未来で幸せになるために起こった奇跡だ。
あいつなんて忘れて、そしてあいつの代わりに俺が貴方を幸せにできたら、俺はこの奇跡に跪いてキスしたいぐらい感謝するよ。
ともだちにシェアしよう!