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第63話
Side:入井 風海
人のやさしさとか、隠しきれていない愛情を感じて胸が痛んだ。
誰かに必要とされている、誰かに好意を持ってもらっている。
それが嬉しいはずなのに、苦しくて辛くて、逃げ出してしまいそうなほど嫌だった。
耳を塞いで暴れて、泣き叫びたいぐらい。
今は、好きだと言われたら傷つけてしまいそうで、本当に嫌だったんだ。
「うわ、意外と寒いですね」
僕は好きにならないよって、好意を全面的に拒否したのにもかかわらず、きっと傷ついているのも関わらず、彼は仕事をしてくれている。
海に行きたいって、ただの我儘なのに。
キスをしてきた君に意地悪を言いたかったのと困らせたかったのと、呆れさせて嫌われたかったのと、色んな感情から出た言葉だった。
海に吹く風は、服の隙間から入り込むとピリピリと痛むぐらい冷たかった。
天気は確かに悪くなったけれど、こんなに海沿いが冷えるとは思わなかった。
「これ、半そでなんですが」
当然と言わんばかりに征孜くんは自分の上の服を脱いで僕の肩にかけた。
けど、作業療法士の服の中身は、タンクトップという驚きの格好に丁寧にお断りした。
見ているこっちが寒そうだ。
「じゃあちょっとあそこでタオル借りましょうか」
「……う」
海岸の入り口にある建物は、夏は飲食店になるが冬はサーファーや潜水をする人たちで講習したり、初心者に教えたりする合宿所みたいになる。はず。
僕もよく知らないんだけど。
「すいませーん。渡辺さんいますかー、俺でーす」
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