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第69話
「俺のことはいい。そんなまだ体調も良くねえのに海になんて」
「えー。お前、元恋人に結婚式誘うなんて鬼畜なの? 馬鹿なの? ひっでえ。どうみてもこの人、無理してんじゃん。顔色みえないのー?」
「そーだそーだ。もっと言ってやってよ。頭おかしいだろ」
「うーん。驚いた。この人、強く言われたら、絶対に断れなさそう。あと無理して取り繕って笑ってるタイプ。損しかしないね」
勝手に僕の性格を診断始めた渡辺さんに、征孜くんが同調して頷いてる。
ここまではっきり言われたら確かに認めるしかないかもしれないけど、僕って一体どんな風にみられてるんだ。
「あの、もっと寒くなる前に行こう、征孜くん」
「あー、はい。窓からこっち見るなよ、二股横恋慕、性欲オバケ野郎」
「征孜くん」
あまりに子供のような言葉を吐くので、驚いて止めた。
二人は仲がいいと思っていたのに、少しだけ悲しくなるし胸が痛む。
そうさせたのは、僕なんだろう。
海辺で車椅子を漕いでもらいながら、少しだけ重い沈黙が流れる。
どうしようもできない思いを抱えているのは、僕だけじゃない、のかもしれない。
「そういえば、君は寒くないの?」
僕に毛布二枚もくれたけど、彼は仕事着のままだった。
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