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第75話
「差尻さん、俺がします!」
「いいから貴方は寝袋に戻っていなさい」
うわあ、やっぱり本当に寝袋にいるんだ。
ちゃんと家に帰って寝ないと寝不足になりそう。
「あのね、風海さん」
「はい」
「食事が三部粥ぐらいになりだしたら、トイレが近くなるし下りやすくなるから注意してね」
「そうなんですね」
猶更、自力で歩けるようにならなくちゃ。
部屋から部屋の中にあるトイレまで、そこまでは自力で頑張りたい。
五年も寝ていて落ちた筋力と体力をはやく戻さないと。
「どうしても一人が大変な時は頼ってね」
「ありがとうございます」
トイレまで誘導してもらい、点滴の管ぶんだけスペースを空けて閉めてもらう。
ああ。点滴も早く外れるように頑張ろう。
「その……風海くんは、同性愛に偏見はあるのかしら」
「え」
水を流して立ち上がろうとしていたら驚いてズボンをずり落としてしまった。
えええ?
「ほら、その……どうみても征孜くん、君にあれでしょう? 嫌じゃない?」
「えーっと」
こんな時、普通の人はどんな答えをしたら普通になるんだろう。
少なくても僕は物心ついたときからそうだった。
ただ人に受け入れてもらえないだろうって隠していたから、言えるようになったのは本当に遼が気づいてくれた時からだ。
でも、どういえばいいんだ。
「あの、偏見はないというか」
その偏見対象だし、僕は。
「征孜くんは、仕事はとても丁寧で感謝はすれど嫌悪なんてとんでもないですし」
言いながらふと、気づく。
差尻さんは僕と遼はただの友達と思ってるんだ。
僕たちがどんな学生時代を過ごしたか知らないんだ。
まあ言えるわけないけど、なんだかとても変な縁だ。
「そう。征孜君ってい良い子だけど強引だから心配だったのよ」
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