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第84話
消灯時間。
看護師が担当患者の元に声をかけて電気を消しに来る。
差尻さんは、いつも僕が頑張っていた部分のどこがよかったかッとか、検査の数値の良かったところとか、安心する言葉をかけてくれる。
次のステップは何があるかって事前に心の準備をさせてくれたり、ね。
「征孜さん」
「井田さん、来てくれてありがとう」
仕事だから当たりまえなのに、ついそういってしまう。
すると少女が微笑むかのような表情をされてしまった。
「彼は起きてます?」
「はい」
部屋の電気を一番小さいオレンジ色の電球に変えて、廊下へ出た。
そこで彼女はやや不安そうに僕を見ながら、他の患者の病室へ向かう。
手すりにつかまって、だいぶ安定して歩けるようになった。
最初のころの、自分の体じゃないような鉛のように重い体を引きずるのではなく、自分の意志で歩けるようになっている気分だ。
そして何度も休憩しつつ、談話室へ向かう。
すると、ミノムシみたいに寝袋に入った大きな物体を見つけた。
ソファ三つの上に、寝そべっている。
……眠っているのかな。
彼の死角のぎりぎりまで近づいて、寝袋の中の顔を確認しようとした。
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