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第87話
ごめんね。僕だって悪いけど、辛い恋に耐えてきた人間だ。
君の言葉の意味ぐらい理解している。でも、知らないふりは誰よりも上手にできるんだよ。
遼のおかげで、ね。
「羊が一匹、羊が二匹」
「逆に眠れません」
「ラム肉行きが左、牧場が右」
「やめて。かなしい。やめて。左は閉鎖」
クスクス笑うと、締めていたカーテンを開けられた。
枕に沈む征孜くんは、なぜか目がギンギン冴えている。
「迷える子羊が、ここに一匹」
「左?」
「俺をラム肉にするんですか」
酷い人だ。
小悪魔だ。
そんな言葉を言うくせに、君が絶対に僕を襲わないだろうってわかってるからつい、意地悪してしまう。
「僕のベットに来ますか」
小悪魔だ、とは言わなかった。
ただ急に真面目な顔になる。
「流石に、それは俺も男なので無理です」
「そう。じゃあ僕が行くね」
立ち上がって、よろめきながら彼のベットに座って、膝をポンポン叩く。
「知ってる? 男の膝なんて固くて寝にくいんだよ」
そして僕は今、鶏ガラみたいに痩せて情けない姿だ。
「でも、おいで」
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