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第88話
僕の膝を枕にすれば、どこにも行かないでしょ。
行っても気づくでしょって言うと、彼は大義名分ができたと言わんばかりに僕の膝に抱き着いてきた。
そして本当に一分も経たないうちに寝息が聞こえてきたんだ。
髪を撫でて、額を晒す。
すると、くっきりと分かる目の下の隈。眠たくて暖かい体温。
ごめんねと、ありがとうと、どうしてそこまでと、複雑に感情は絡み合ったけれど、まずは征孜くんの安心してもらえるような、しっかりした大人の男にならねばならない。
「んンん……」
すりすりと頬を膝に摺り寄せてくる姿には平伏するけど、げんきになってくれるなら嬉しい。
彼が完全に寝たような気がしたぐらいに、僕の膝も痺れてきたので横に転がした。
けれど僕の膝じゃないって気づいて起きたら困るので、僕は彼の着替えの中にあったマフラーを僕の腕と彼の腕に巻き付けた。
そのマフラーがちょうど真っ赤で。
運命の赤い糸みたいに真っ赤で。
でも小指ではなく、腕同士に結んだのだから、これは運命の糸ではない。
ただの生存確認用の太い布。
分かっているはずなのに、胸は早鳴っていく。
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