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第89話

「なんか、今日もまだ眠れなくて」 「今日はまじ寝てないです」 「あー……つらい。眠たいのに眠れなくて辛い」 「今日は、昨日よりも眠れない気がする」 「二日前のやや眠たさよりも上」 「……」 ほだされてやったと思えば、睡眠不足を某ボジョレー・ヌーヴォーの味の出来のように例えてくるから、甘やかしすぎたのはいけないと反省する。 しかも今日は普通に「ただいま」と、仕事が終わってそのまま僕の部屋にやってきた。 「君、いい加減に家に帰りなよ。弟くんが寂しがってるよ」 「全然ですよー。それに家は、再婚した義父とうちの母と弟の三人の方が気まずくないでしょう」 「うう。そんな複雑な環境だってアピールやめてよ」 絶対にそんなことない。絶対、弟くんの様子からして仲良しな家族だろう。 「そういえば一文字くんのお父さんって、お医者さん?」 「いえ。医療メーカーの社長です。どっかの馬鹿がコネで入社できるぐらいの、大きな会社」 「あ……なるほど」 遼は姉の旦那の会社にコネで入って、監視されてるって言ってたのはそれか。 でも、遼の名前を数日ぶりに聞いたけど、それほどダメージがない。 気持ちの方は、ゆっくりだけど傷が治って行っているのかもしれない。 「ところで、明日、入院中の子どもたちが仮装して談話室でお菓子を食べるらしいんです」 「へえ、季節イベントですね」 「で、全部のフロアの受付でお菓子をもらいに行くらしくって、俺も車椅子の子を押すんで一日いません」

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